凹んだ四角い箱、それが俺の台所だ。トランギア・メスティン(ラージ)
著者:ゲンゾウ

凹んだ四角い箱、それが俺の台所だ。トランギア・メスティン(ラージ)

おしゃれなクッカー?そんなもん要らん。
俺が森へ持っていくのは、このボコボコに凹んだアルミの箱一つだ。
これで飯を炊き、肉を焼き、酒のアテを作る。
それで十分だ。

究極の単純さ

野営の飯において、最強の道具は間違いなくTrangia Mess Tin (Large)だ。
最近はいろんなメーカーから似たような四角いコッヘルが出ているが、俺はスウェーデンの老舗、トランギア社のがいい。
取っ手の無骨なリベットの打ち方、バリのある縁(まあ、これは自分でヤスリがけする儀式が必要だが)、いかにも「実用品」というツラ構えがいいじゃないか。

なぜこれを選ぶのか?
理由は単純だ。「何でもできる」からだ。
複雑な機構も、特殊なコーティングもない。
ただの薄いアルミの板をプレスして作った、四角い箱だ。
だが、その単純さこそが、過酷な環境では強さになる。

チタンは軽くて丈夫だが、熱伝導率が悪いから飯炊きには向かない。焦げ付く。
ステンレスは重い。
その点、アルミは熱が全体に素早く回る。
アルコールストーブや焚き火の不安定な熱源でも、米の芯までふっくらと火を通してくれる。
「飯盒炊爨」の基本にして頂点だ。

傷だらけの履歴書

俺の使い方を教えてやる。
まず、ラージメスティンいっぱいに3合の米を炊く。
蓋の上に缶詰を置いて温めるのも忘れるな。
グツグツと沸く音、吹きこぼれる粘り気のある泡。
音がパチパチという乾いた音に変わったら、火から下ろしてタオルで包んで蒸らす。
蓋を開けた瞬間、立ち昇る湯気と、銀シャリの香り。
そこらにある木の枝を削った箸でかき込む飯の味は、高級料亭のそれよりも美味い。

飯を食い終わったら、そのままその箱で次の料理だ。
蓋はフライパンになる。
ソーセージを焼いてもいいし、目玉焼きを作ってもいい。
深さがあるから、油を入れて揚げ物だってできるし、網を敷けば蒸し器にもなる。
冬場は、おでんを煮込んで、熱燗を横につけるのも最高だ。

使い終わったら、焚き火の灰と枯れ草でゴシゴシ洗う。
コーティングなんてないから、金たわしで擦っても構わん。
使えば使うほど、底は煤(すす)で真っ黒になり、あちこちぶつけて凹んでいく。
だが、それがいい。
ピカピカの道具なんて、森じゃ恥ずかしいだけだ。
その傷の一つ一つが、お前がどこの山に行き、どんな夜を過ごしたかという「記憶」そのものなんだからな。

使い手次第の自由

この四角い形状も絶妙だ。
丸いコッヘルはパッキングしにくいが、四角ならザックの隙間にすっぽり収まる。
中に調味料やカトラリー、着火剤なんかを詰め込んで「メスティン・セット」を作っておけば、忘れ物もしない。
袋ラーメンも割らずに入る(ラージならな)。

高価な道具をありがたがって使うな。
安くて丈夫な道具を、躊躇なく使い倒せ。
道具ってのは、お前の手足の延長だ。
気を使わせるようなヤツは、相棒失格だ。

トランギアのメスティンは、お前の荒っぽい扱いを全て受け止めてくれる。
真っ黒に焦げた底を見ながら、焚き火の前で飲む酒。
「お前もよく働くな」なんて声をかけたくなる道具は、こいつくらいなもんだ。


[商品リンク: Trangia Mess Tin (Large)]

この記事を書いた人

ゲンゾウ

「不便を楽しめないなら、山になど来るな。」

便利すぎる現代社会に背を向け、ナイフ一本で森に入浸る頑固な古参キャンパー。

道具は「使う」ものではなく「育てる」もの。

傷の一つ一つに物語を見出し、手間暇かけることを至上の喜びとする。

口は悪いが、自然への敬意と初心者の安全には人一倍うるさい。