手のかかる「カーボンスチール」のオピネル
著者:ゲンゾウ

黒錆(くろさび)を纏え。オピネルナイフを育てる「儀式」

「錆びるのが怖いだと? ならば、先に錆びさせてしまえばいい。」

便利さをこれでもかと詰め込んだステンレスのナイフ。
手入れ不要、錆び知らず。
確かに優等生だ。だが、面白みがない。
わしが愛するのは、手のかかる「カーボンスチール」のオピネルだ。

OPINEL(オピネル) カーボンスチール #9

買ったばかりの白銀の刃。
そのまま使えば、湿気ですぐに赤錆が浮く。
赤錆は鉄を腐らせる「癌」だ。
だが、それを防ぐ方法がある。
良性の「黒錆(くろさび)」で刃を覆うのだ。

これは単なる作業ではない。
ナイフに魂を吹き込む「儀式」だ。


1. Preparation: 紅茶と酢のポーション

用意するのは、濃く煮出した紅茶と、酢。
紅茶のタンニンと、鉄が反応して黒錆になる。
割合は紅茶8に酢2くらいか。適当でいい。
大事なのは「濃さ」だ。
ティーバッグを2つ、いや3つ入れて、真っ黒な液体を作れ。

2. Ritual: 漬け込み

まずはナイフを脱脂する。
油が残っていると、そこだけ染まらない。
中性洗剤で洗い、パーツクリーナーで拭き上げろ。
完全に裸になった鉄を、まだ温かいポーションの中に静かに沈める。

シュワシュワ……と微細な泡が立つ。
鉄が化学反応を起こし、悲鳴を上げている音だ。
いや、生まれ変わろうとしている産声か。
そのまま2時間。いや、一晩置いてもいい。
待つ時間もまた、ブッシュクラフトだ。

3. Awakening: 漆黒の刃

引き上げた瞬間、お前は息を飲むはずだ。
安っぽい銀色のメッキは消え失せ、鈍く光る漆黒の刃が現れる。
「ガンブルー」とも呼ばれるその色は、もはや工業製品の色ではない。
古代の武器のような、凄みのある黒だ。

仕上げにオリーブオイルを塗り込む。
黒光りする刃。
これで、赤錆はもう寄り付かない。
リンゴを剥いても金臭くない。

傷ついたら、また研げばいい。
黒錆が剥げたら、また染めればいい。
そうやって手間をかけるたびに、こいつは「道具」から「相棒」になっていく。

お前さんのナイフは、まだ「売り物」の顔をしていないか?
さっさと汚して、自分だけの色に染め上げろ。

以上。



この記事を書いた人

ゲンゾウ

「不便を楽しめないなら、山になど来るな。」

便利すぎる現代社会に背を向け、ナイフ一本で森に入浸る頑固な古参キャンパー。

道具は「使う」ものではなく「育てる」もの。

傷の一つ一つに物語を見出し、手間暇かけることを至上の喜びとする。

口は悪いが、自然への敬意と初心者の安全には人一倍うるさい。