冬の旅は、孤独だ。
寒さは物理的な体温だけでなく、心まで削り取っていくような気がする。
バイクで走り続け、感覚を失った指先を見るたびに、自分は何のためにこんな場所にいるのかと問いたくなる夜がある。
そんな時、私のポケットにはいつも彼がいる。
ハクキンカイロ。
こいつは、ただの暖房器具じゃない。なんというか、小さな生き物だ。
使い捨てカイロのように、封を切れば勝手に温まるような便利さはここにはない。
ベンジンを注ぎ、火口(ひぐち)にライターの火を近づける。触媒反応が始まり、ゆっくりと、しかし力強い熱が生まれ始める。
その手間がかかるプロセスさえも、愛おしく感じる。
「生きるためには、手間が必要なんだ」と、教えられているようで。
私がこいつに惹かれるのは、その「恒久性」ゆえかもしれない。
戦場を回っていた頃、私はあまりにも多くの「使い捨て」にされる命や物を見てきた。
役目を終えればゴミとして捨てられる。そんなサイクルに疲れていたんだと思う。
だから、手入れをすれば何十年も使えるこの真鍮(しんちゅう)の輝きに、救いを感じるのだ。
ハクキンカイロの熱は、使い捨てのそれとは質が違う。
例えるなら、体温の高い猫を懐に入れているような、湿り気を帯びた有機的な熱だ。
ベンジンの微かな匂いと共に上がってくるその熱は、ジャケット越しに心臓まで届く気がする。
極寒のテントの中で、寝袋にこいつを放り込む。
足元にある確かな熱源。それは、闇の中で灯る小さな篝火(かがりび)のように、私を安心させてくれる。
「まだ大丈夫だ。まだ走れる」
そう囁かれているような気がして、いつしか眠りにつけるのだ。
もしあなたが、冬の寒さに心細さを感じているなら。
そして、安易に消費されるだけの温もりに虚しさを感じているなら。
ハクキンカイロを手に取ってみてほしい。
少し手間はかかる。
でも、その手間をかけた分だけ、こいつは必ず応えてくれる。
その熱は、あなたの凍えた孤独を、優しく溶かしてくれるはずだ。
ポケットの中の小さな鼓動と共に、また明日、どこかへ行こう。
